カルチャーショック4:風の吹くまま@Zambia

2014/03/01佐藤慧

いつになったらこの泥沼から抜け出せるのだろう、そう思っていた。ねっとりと足に絡みつくのは、これまで抱え続けてきた様々な想いだ。「国際協力」と呼ばれる世界に携わり、自分なりに色々なことに挑戦してきたつもりだった。ところが、ふと立ち止まり周りを見てみると、そこにいるのは一歩も先に進んでいない自分自身だった。

初めてザンビアに派遣された時は、大いに無力さを思い知らされたものだった。HIVエイズやマラリアの猛威の前に、僕に出来ることなんて本当に僅かなものだった。むしろ、自分がそこに赴いたことで、多くの人に害悪すら与えてしまったのではないかという想いがつきまとった。

ザンビア駐在中に、ある少年が事務所に盗みに入った。僕が僅かな給料の中から貯めていたお金や、テープレコーダーなどを盗んだその少年は、いつも仲良く遊んでいた隣の家の子供だった。その子は捕まり、盗られたものの大部分は戻ってきたのだが、盗みに入ったという噂は小さなコミュニティの中ですぐに大きな話題となった。結局彼はその村を離れることを余儀なくされ、親戚のいる他の地方へと去って行った。

”何かが出来る”と思ってザンビアへやってきた。傲慢にも、”恵まれない人々に何か助けとなるようなことが出来る”、そのように思っていたのかもしれない。結局僕は、無駄に人々の人生をかき乱しただけだけだったのではないか。

エイズ陽性の人たちのコミュニティと共に活動

出来ることなら早くこの世界から足を洗いたい、このような葛藤など捨ててしまいたい、そういう風に思いながらもNGOでの仕事を続けた。後輩のボランティアを養成する仕事の傍ら、ザンビアの人々に対し何か出来ないだろうかと、ずっと考えていた。傲慢さを携えて行った先で、僕は人生と真摯に向き合うことの大切さを学んだ。エイズやマラリアで多くの人が亡くなる地で、それでも人は毎日を必至に、大切に生きていた。

かけがえのないものを与えてくれた人々に、恩返しがしたい、そう思って「ザンビアに学校を建ててみる」というプロジェクトを始動させた。学校が建てたかったわけではない。そこには確実にニーズがあり、信用出来る人々がいた。いちから学校を設立することは出来なくても、彼らと協力しながら、その地に必要なものを創り上げていくことは出来るのではないか。そう思ってのプロジェクトだった。

ネットを通じた募金活動によって、結果的に200万円を越える募金をいただき、実際に現地の人々を雇って活動を始めた。半年に及ぶプロジェクトの中で、以前とは違った形での人々との交流の機会を得、”共に歩んでいける”という実感を得た。日々切磋琢磨し、時に口論し、時に励まし合う。そこには国境を越えた、人と人との交流が確かにあった。

雇っていた大工の棟梁のムワンサ氏と

プロジェクトを完遂し、帰国。久々に日本の地に足を降ろした僕を襲って来たのは強烈な虚無感だった。自分はいったい何がしたいのか。何かをやり遂げたつもりになっても、結局何も変わっていない。ザンビアの人々の生活はそこで続き、それは此処から切り離された別の世界の出来事のようだった。

人々との真摯な心の交流と恰好良く言ってみたところで、それは戯言に過ぎないのではないか。ブラウン管の向こう側では、相変わらず戦争を知らせるニュースが淡々と流れ、それは映画のひとコマのように、映っては消え、そして忘れ去られていった。人とは不思議な生き物だ。他人を愛することも出来れば、無慈悲に殺すことも出来る。その対象が、誰かにとってのかけがえのない人であるという想像は、距離を隔てれば隔てるほどに希薄になる。どうすればその距離を縮めていけるのだろう。

早すぎる日本の時計に追われながら日々を過ごす中で、ふとした瞬間に空を見上げてみる。この空は、ザンビアに生きる彼ら、彼女らの上にも広がっている。元気な声で笑う友人たちを思い出しながら、僕はそこにある生活に想いを馳せた。早く会いに戻りたい。人生の中で出逢える人の数は限られている。そんな中で出逢った人々。国境を越えて出逢ったことの意味を想う。前より少しだけ、世界と、あなたと繋がったような気がして、今日も風の吹くまま、気の向くまま、前に進んで行く。

(2010年11月 旧E-PRESS掲載)

佐藤慧(Kei SATO)

1982年岩手県生まれ。国際開発の分野に関わり、アメリカ、アフリカ、中米などで経験を積む。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、命の尊厳や愛を伝える手段としてのジャーナリズムや芸術活動に希望を託し活動を開始。言葉を探しつつ、風に吹かれ、根無し草のように自由に世界を漂いながら国家、人種、宗教といったあらゆる境界線を超えて、人と人との心の繋がりを探求し、それを伝えていく。

カルチャーショック

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