カンボジア緑の村1:少年の夢
カンボジア、トゥオールサンボ地区。ここにはHIV感染者とその家族が、40世帯ほど暮らしている。周囲の住人から「緑の家」と呼ばれているこの村に初めて訪れたのは去年(2009)の8月。
「僕の写真も撮ってよ!」

と駆け寄ってきた一人の少年がいた。
12歳になるトーイは、6人兄弟の末っ子。「トーイ」はクメール語で「小さい」という意味だ。その名の通り12歳とは思えないほど細くて小さな体をしている。そんな彼は普段「プロチェンペ」と呼ばれている。クメール語で「人気者」という意味だ。わがままで甘えん坊だけれど、村一番の元気印として愛されている。
緑の村の近くにはNGOの運営する学校があり、平日、100人近くの子どもたちが熱心に勉強している。でも、一緒に学んだり遊んだりする隣の席の友達はいつも同じ村の子どもだ。
「あの子は”緑の家”の子だから」
HIVに対する偏見が根強いカンボジアでは、同じ学校の親から子へ、差別も受け継がれていってしまう。HIVに対する正しい知識がないことが偏見を加速する。

ある朝、村に行くとトーイがいつになく浮かない顔をしている。今日はお母さんと、街に出かける日なんだと言う。
トーイのお父さんは売春宿でHIVに感染した。次に、お父さんからお母さんへ感染。そして6人いる兄弟の中でトーイにだけ、母子感染があった。
この日は月に1回の検診の日だった。小さな体で、生まれながらに、自分の運命と戦うトーイ。彼のわがままや甘えは、彼が抱えてきたものの裏返しなのかもしれない。

「緑の村」には時折、周囲の村の住人が石を投げに来たり、住居の一部を破壊しに来ることがある。
病院からの帰り道、トーイは少し照れくさそうに教えてくれた。
「将来は警察官になりたいんだ。警察官になって、村を悪いやつらから守りたい」。
(2010年9月 旧E-PRESS掲載)