レンズが捉えるスポーツの本質

2014/03/01安藤理智

今、私は中国/広州にいる。第16回アジア大会の真っ最中だ。縁あって、日本人でありながらタイ国オリンピック委員会のオフィシャルカメラマンを務めさせて頂き、今大会もタイ国代表選手団に帯動し、朝から晩まで競技会場を駆け回っている。今回はそんなアジア大会から、皆さんにスポーツの面白さを文章で伝えるという試みにチャレンジしたいと思う。

スポーツには人間の物語がある

(C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand

スポーツは人間が生み出したドラマだ。選手達が見せる喜怒哀楽は、さまざまな表情となって僕たちを魅了する。そこにあるのは、まさに人間本来の姿だと思う。感情を剥き出しにし、プライドを賭けて一瞬に挑む選手達の表情は、見ている我々を虜にする。

筋書きのないストーリーの、その一瞬だけを、ファインダーを通して永遠に記録すること。それがスポーツ写真であり、スポーツカメラマンの仕事なのだ。

選手の持っている魅力。それを言い換えれば競技に挑み、体力、技術、精神力。そういったものを武器に戦う人間の生の姿をとらえてこそ、感動的なスポーツ写真が生まれる。

昔はアクションの魅力をとらえることがスポーツ写真の主流と考えられていた。しかし、それだけでは十分にスポーツが持つ魅力を伝えられるわけではない。

アクションと、人間そのものの魅力を映像として残してこそ、現代のスポーツ写真なのだ。メダルを持ってにっこりピース写真だけでは見る側に感動が伝わらない。

技術の時代から感性の時代へ

(C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand

カメラの進歩に伴って、スポーツ写真の世界も大きく変わってきた。まだオートフォーカスカメラが無かった時代には「ピント」「フレーミング」「シャッターチャンス」の3つを同時に操作することが、スポーツ写真における基本技術とされてきた。瞬時にこれができなければ、スポーツの写真は撮れなかったのである。

私もスポーツ写真を撮り始めた時は、先輩カメラマンに習い、ピントが合わせられるようになるまでフィルムを何百本と無駄に使ったものである。念のために付け加えておくが、時代はすでにオートフォーカスカメラ時代。ところが、先輩達から「マニュアルでピントがあわせられないならスポーツは撮るな」と脅かされていたのだ。

ところがオートフォーカスカメラの性能が上がるにしたがい、操作は格段に楽になった。特に一番の難関とされてきた「動くものに常にピントを合わせ続ける」という操作も、カメラが正確に、早くあわせてくれるようになった。その結果としてピントをカメラにまかせ、フレーミングとシャッターチャンスに注意して撮影を行えば良い事になった。

さらに時代は進み、カメラの精度が上がり、連写機能が充実する事で、シャッターを押し続ける事でシャッターチャンスもある程度はカメラ任せにできる時代になってきた。フィルムからデジタルへと写り、枚数を気にする事無く撮影もできるようになってきた。

そうなると問題になってくるのが「感性」だ。撮らされた写真と、撮った写真は明らかに違う。

何百分の一秒、あるいは何千分の一秒、という最高の一瞬を狙うのであれば、ただシャッターを押し続けていても、「良い瞬間」は撮れない。やはり、全神経を集中させ、選手と気持ちを同じくして初めて「最高の瞬間」をものにできるのだ。ただカメラ任せにするのではなく、自分の技術を磨くという意味においては、まだまだ真剣に取り組む必要がある。

とはいえ、カメラ操作が何よりも優先された時代はすでに終焉を迎えつつある。まさに、写真を撮る人間の感性が試される時代へと突入しているのだ。

選手同様に甘えは許されない

(C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand

オリンピックやアジア大会を取材するスポーツカメラマンは華やかな世界にいるように見えるかもしれないが、実際はかなり過酷だ。まず、機材も15kgから20kgを一人で持ち歩き、朝から晩まで競技会場を移動しながら撮影を続ける。もちろん、締め切り時刻がある場合にはその時間を考慮しながら撮影した写真のセレクトを行う。

スポーツにおいては「やり直し」がない。同じ瞬間は二度と訪れない。だからこそ、万全の準備をして競技会場へと向かうのだ。

自分が狙ったイメージをものにするため、全神経を集中させる。甘えは許されない。

写真は怖いものだ。その時の気分が沈んだ状態では、それがそのまま写真に残ってしまう。だからこそ選手と同じく、写真を撮る側も「肉体と精神」を充実させて大会に臨むのだ。

アジア大会が終わると、アジアビーチ大会、冬季アジア大会と続く。意外かもしれないが、常夏の国タイも冬季アジア大会に選手団を派遣する。映画『クールランニング』ではないが、そのうちタイからも冬季オリンピックのメダリストが誕生する日が来るのかもしれない。

(2010年11月 旧E-PRESS掲載)

安藤理智(Risato ANDO)

2008年10月よりタイ王国オリンピック委員会のオフィシャルフォトグラファーを努め、タイ代表選手団に帯同して各総合大会を撮影&配信中。その一方で在バンコク邦人子女向け学習塾の講師という一面も合わせ持つ。

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