龍と暮らす1:龍と暮らす

2014/03/01佐藤慧

龍と暮らしてみよう。

と言っても、伝わらないだろうな。
それは妄想と生きることじゃないし、ましてやアベラントカリフォルニアキングスネークを買いに輸入ペットショップに駆け込むことでもない。

ただ、日常の中で龍と暮らすのだ。


冬はまだ側にいる。

けだるい朝、カーテンの隙間から差し込む日の光から晴天の匂いがする。手を伸ばし幕をずらすと、斜めに差し込む光の幾何学の中に無数のチリが舞った。肺の中までチリが浮いているような気になって、咳き込むように窓を開ける。

瞬間、ひやりとした空気が頬をなでた。
きめこまかな無数の、蜘蛛の糸よりも細く、透き通った風の繊維がするりと部屋に入ってきたのだ。ぬくぬくと暖房に温められた部屋の空気は、その流れの侵入に慌てふためき天井へと逃げていく。まるでその肌が目に映るかのように、ふたつの気流は蛇のように絡まり合い互いを牽制し合っている。徐々に冷気の流れは堅固になり、チリの混じった乾いた空気は、堪らず戸外へ漏れていく。

起き上がり、もうひとつの窓を開ける。
とたんに新しく開け放たれた窓からも、ひゅるっと冷気が滑り込み、先ほどの窓からの流れと溶け合った。窓から窓へ、(どちらが頭か尻尾かわからないが)巨大な龍の胴体が抜けていく傍らで、僕は深く深呼吸をした。

龍が、体に満ちていく。

肺の奥底から、血管の先の毛細血管の奥の奥まで、龍はなめらかに潜っていく。エネルギーの使い果たされた血液の粒子は、龍と触れると活力を取り戻し、心臓へ、脳へ、指先へ、全身へと駆けていく。それは鋭い冷たさではなく、清さを湛えるせせらぎのような冷たさで、まだ眠りにしがみつく細胞たちに朝を告げる。

窓の外を眺めてみる。
緑も見えない、灰色の街角。

学校へと駆けていくこどもたち。
その背中を追うように流れる大きな龍が、そこにもいた。

よく見ると、あちらの角にも立派な龍。

龍は流れ、溶け合い、徐々に朝日に温められると、渦となって天へ昇る。

そんな、たわいもない、美しい朝。

佐藤慧(Kei SATO)

1982年岩手県生まれ。国際開発の分野に関わり、アメリカ、アフリカ、中米などで経験を積む。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、命の尊厳や愛を伝える手段としてのジャーナリズムや芸術活動に希望を託し活動を開始。言葉を探しつつ、風に吹かれ、根無し草のように自由に世界を漂いながら国家、人種、宗教といったあらゆる境界線を超えて、人と人との心の繋がりを探求し、それを伝えていく。

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