音の世界の中で研ぎ澄まされる ゴールボール日本チームのパラリンピック1

2014/03/01矢萩邦彦
カナダ戦。安達阿記子選手の欠場もあり苦戦したが、ディフェンスは安定。(写真:安藤理智)

ゴールが決まり、ホイッスルが鳴った途端に会場が沸く。それまでは選手は沈黙の内に集中し、観客も記者も、静寂に張り詰めた緊張に息をのむ。ゴールボールは、3人対3人のチーム戦。ガーゼの眼帯をした上にアイシェードをつけて、相手のゴールにバスケットボール大のボールをシュートする。中には鈴が3〜4個入っていて、その音を聞いて選手達はボールの位置を把握する。ラインの下には紐が入っていて、触れば分かるようになっている。

ボールの重さは1.25Kg。固い。ディフェンスの際に響く音は聞いているとドキッとする。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

音楽が流れ、「シーッ」というアナウンスで会場はピタっと張り詰める。日本チームの守備力は高い。どんなボールもまるで見えているかのようにがっしりと止める鉄壁の守備だ。課題は攻撃力。

ディフェンスの要、浦田理恵選手はゴールボールの魅力についてこう語ってくれた。

「音の世界の中で研ぎ澄まされて、どんな人とでも熱くなれる素晴らしい競技です。そしてチームプレーなので、独りではなく、それぞれの役割でチームに貢献でき、自分の必要性を確認できるので、生きていく上で本当にやりがいのあるスポーツです」。

スウェーデン戦。日本のシュートはしなやかで美しいが、パワーとスピードに課題が残る。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

この日のアメリカ戦は2-1で日本の勝利。まだ予選はつづくが、浦田選手は、「ここに来ている以上、目的は一つです。金を目指して頑張ります。応援よろしくお願いします!」と強い目としなやかな笑顔で応えてくれた。アスリートの美しいまなざしに、障害者スポーツであることを忘れた瞬間だった。

翌日のカナダ戦ではペナルティスローでの得点を許し、初の敗戦となったが、試合後浦田選手は「一つのミスから引っ張られてしまいましたが、サーチもしっかり出来ていたので大丈夫です。予選も通りましたので、守りをしっかり固めていきます」。と安定した意志をみせる。

準々決勝を前に小宮正江選手のお姉さんは、「激しい一面もある競技なんです。普段通り頑張ってもらえれば。全身でボールを受けるから顔に傷を作ってくるので、本当に怪我なく無事に終わってくれれば、と思っています」と胸の内を語る。お母さんからは、「ここまで来ただけで嬉しいです。もちろん勝って欲しいですけどね。普段の練習通りにしてくれればいいと思うので、そう伝えてください」と伝言を承った。

準々決勝ブラジル戦での小宮選手のシュート。小宮選手と安達選手が攻撃の柱だ。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

準々決勝のブラジル戦は予選とは打って変わってスピード感のある展開になった。開始3分で、小宮選手のシュートがブラジル選手のディフェンスをバウンドしてゴールへ。ここから一気にペースをつかむ。

確実な防御で隙をうかがう日本チームだったが、安達阿記子選手のハイボールでペナルティースローに。ハイボールとは攻撃側のチームエリアかランディングエリアに触れずに守備側へ投球された場合に取られる反則である。

「その時は無心で、自分が出してしまったハイボールなので、しっかりここで取って、自分たちのチームのほうの流れを持ってくるという思いで、無心で取りました」という安達選手はしっかりキープ。会場は喝采、日本応援団も盛り上がる。ブラジルチームは回転シュートやバウンドを利用したパワフルなシュートを繰り返すが、日本はしっかりディフェンス。開始23分でその安達選手が追加点を入れ、そのまま日本の勝利となった。

準決勝進出が決まり、会場のオーディエンスに応える日本チーム。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

「今回は日本からロンドンに応援に駆け付けてくれた方々もいますし、元気づけられて、はい、一本一本集中してできたので、こういう結果に結びついたと思います。みんなひとりひとりが役割をしたと思います」と語る小宮選手にご家族からのメッセージを伝えると、「もう、すごい、ありがとうという気持ちでいっぱいです。これまで支えてきてくれた、もちろん仲間も一つにはありますが、家族が一緒にいたからこそ、私、今の自分があるので、私も自分自身がなかなか出せていなかったので、その辺を今日は思いっきり自分らしくいこうっていう風に決めていたので」。

江黒ヘッドコーチは「いやあ、やっぱり厳しい試合ですので、よく選手たちも頑張ったと思います。でかい体を相手にホントよく頑張ったと思います。やっぱりチームプレイですので、最後小宮もカバーしてくれましたけど、一人で防げなければ二人で、三人で。やっぱり日本はチーム力で勝ちますので。安心はできないですけれど、頑張りますよ!」と意気込みを聞かせてくれた。今日、日本チームは準決勝、再びスウェーデンと戦う。

(2012年9月 LIVEonWIRE_JOURNAL掲載)

矢萩邦彦(Kunihiko YAHAGI)

教育・アート・ジャーナリズムの現場で活動し、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指す日本初のアルスコンビネーター(命名は松岡正剛)。予備校でレギュラー授業を持ちながら、全国で江戸的私塾『鏡明塾』を展開、分野にとらわれない現代版陽明学を実践している。学校機関でも特別講師として平和学・社会学・教育学など講演。また教育コンサルタントとして学生や保護者へのアドバイスに留まらず、講師研修・企業研修等も手がけている。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではジャーナリスト育成や大学との共同研究に従事、ロンドンパラリンピックには公式記者として派遣された。

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