音の世界の中で研ぎ澄まされる ゴールボール日本チームのパラリンピック2

2014/03/01矢萩邦彦

準決勝。日本チームが入場し選手紹介が始まった。元気よく両手を挙げるキャプテンの小宮正江選手。続いて浦田理恵選手が淑やかに礼をし、欠端瑛子選手、中嶋茜選手、若杉遥選手がエレガントに片手を上げての挨拶、そして安達阿記子選手がしっかりとした落ち着いた礼で締める。皆笑顔である。コーチ陣も厳しい表情の中に笑顔を見せる。予選第一戦から日本チームを追っていて、常に笑顔が絶えないのがこのチームの一番の強みだろうと感じる。

日本チーム笑顔で入場。これがチームワークの鍵か。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

準決勝は二度目のスウェーデン戦だ。前日小宮選手は「これまでやってきたことをしっかりと出せば絶対に結果につながると思いますので、全員で、3人しかコートに立てませんけど、心を一つに勝利につなげていきたいと思います」と意気込みを話してくれた。

試合前のウォーミングアップ。浦田選手は笑顔で淡々とこなす。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

対するスウェーデンチームは音楽に合わせて全員で踊る余裕を見せる。日本チームが円陣を組んでも、会場に流れる『Y.M.C.A.』に乗って腰を振りながら自国の応援に応える。今回のパラリンピックは多くの会場で演出やMCの良さが光った。うまいことゲームが始まるまでに会場を盛り上げてくれる。各選手がアイシェードをし、客席でカウントダウンが始まった。お約束の「シーッ」というアナウンスで会場は張り詰める。

ゲームスタート。直後にスウェーデンいきなりのハイボールでペナルティースロー。シュートは小宮選手だがこれはブロック。今日のスウェーデンはパワーで押してくる。ボールが重い。腹部でブロックした安達選手に、「ナイス!」と浦田選手の透明で落ち着いた声が飛ぶ。

キャプテン小宮選手のシュート。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

スウェーデンは序盤からフェイクを組み込んだ攻撃。投球者以外の選手が足音を立てる。対する日本も予選では見せなかったテクニカルなプレーで応戦する。やはり攻撃力ではスウェーデンに分があるように見えるが、日本のディフェンスは固い。両チーム得点の無いまま前半は終了。

日本の応援団も負けじと盛り上がる。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

タイムアウトすると会場は一気に応援が盛り上がる。スウェーデンのコールに対抗して、負けじとニッポンコールが起きる。ホイッスルが鳴り、プレイ!のアナウンスで後半戦スタート。

まもなく安達選手のハイボールでペナルティースローのピンチに見舞われるがゴール端に刺さるようなシュートをジャンピングブロック。そして試合開始18分でスウェーデンのサードタイムスロー。サードタイムスローは3回連続で同じ選手が投球した際に取られる反則である。このチャンスに安達のシュートがゴール端に吸い込まれるように決まった。待望の先制点!守りに自信がある日本にとっては本当に貴重な1点だった。

その後、両者譲らぬ攻防が続き、試合時間は残り1分55秒。再びスウェーデンのハイボール。ここで勝利を確信した取材陣は選手にインタビューが出来るMXゾーンへ移動したのだが、着いた途端に少し早いホイッスルが鳴り、歓声が上がった。残り29秒でなんと小宮選手の守りが崩れ、同点のゴールが決まったのだ。

安達選手、会心のブロック。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

延長戦であるオーバータイムは3分間が2セットまで。両者譲らぬ攻防で、0対0のまま2セットが終了。エクストラスローに突入した。エクストラスローは一対一のスロー対決になる。全選手が順に競技し、3ポイント先取で勝利となる。

1番手の浦田選手は安定したブロックとシュートで1点を先取、つづく小宮選手も相手ゴールを許さずに1点を獲得し残り1ポイント。ここからのスウェーデンの粘りが凄かった。日本のシュートはことごとくブロックされ投球は一巡。15投目キャプテン小宮選手のシュートがゴールに吸い込まれ、記者席からも思わず歓声が上がる。16投目のスウェーデンはアウト、70分に及ぶ長期戦を制し、日本の決勝進出が確定した。

思わず涙する小宮選手。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

「エクストラの時の、自分がコートに立ったときの緊張はすごかったです。世界選手権とかでも日本はディフェンスでしっかり守って、エクストラスローに持ち込むパターンが今までもあったんですけど、ほんとに今日は最後の最後まで緊張しました。“みんな”で点を取って、ブロックしたという思いです」しっかりとミスをカバーして勝利に導いた小宮選手は、試合終了直後には涙を流すシーンも見られた。エクストラスローの緊張は並大抵のものではなかっただろう。

決勝進出を果たし、歓声に応える江黒ヘッドコーチと日本チーム。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

「彼女たちに私ができるのは、「落ち着きなさい」ということだけですので、呼吸をしっかりと整えるようにと、すべてを出して、息を全部出して、思いっきり吸い込むっていうことですね。呼吸だけは乱れないようにと思いました」とエクストラスローへ向かう選手へのケアを語る江黒ヘッドコーチ。スウェーデンのパワーボールをブロックした選手達には「よく抑えましたよね。ほんと、選手たち、あの細い体でよくやってくれたと思います。ほんとに、ほんとによく頑張ったですね」と労った。

明日の意気込みを語る浦田選手。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

「もう、今まで4年間目指してきたのは金メダルなので、明日、中国、しっかりパーフェクトに抑えて勝ちに行きます! 本当にディフェンスが日本の売りなので、明日も丁寧に一個一個しっかり止めて、頑張ります!」と満面の笑顔の浦田選手は、予選から全くぶれない試合内容と意気込みで、なぜか取材している僕らが元気をもらってしまう。

江黒ヘッドコーチはいつも気さくにインタビューに応じてくれる。(写真:市川亮/LIVEonWIRE)

「アテネの時は流れで取らせていただいたメダルだったが、今回は選手たちが力で取ったものだと思います」と江黒ヘッドコーチ。明日、いよいよ日本チームの4年間を決勝にぶつける。相手は強豪中国だ。

(2012年9月 LIVEonWIRE_JOURNAL掲載)

矢萩邦彦(Kunihiko YAHAGI)

教育・アート・ジャーナリズムの現場で活動し、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指す日本初のアルスコンビネーター(命名は松岡正剛)。予備校でレギュラー授業を持ちながら、全国で江戸的私塾『鏡明塾』を展開、分野にとらわれない現代版陽明学を実践している。学校機関でも特別講師として平和学・社会学・教育学など講演。また教育コンサルタントとして学生や保護者へのアドバイスに留まらず、講師研修・企業研修等も手がけている。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではジャーナリスト育成や大学との共同研究に従事、ロンドンパラリンピックには公式記者として派遣された。

パラリンピック2012

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