『知の楯』―正しく考えるためのバイアスキャンセル技法1:僕らの思考は縛られている

2014/03/01矢萩邦彦

突然ですが問題です。

【問題1】あなたが冒険の途中、モンスターに襲われたとします。その時あなたは楯しか持っていません。武器はありません。さて、どうしますか? 

ビジネスの世界では、ロジカルシンキングという言葉がよく使われますが、論理的に考えられるようになるというのは、言い換えると、直接関係の無い情報の影響を受けることなく、偏ることなく淡々と機械的に物事を判断できるようにする、ということです。

論理思考が苦手な人の中には、論理が理解出来ないと言うよりも、偏った情報や余計な情報によって混乱させられてしまっている人が相当数居るように感じます。なぜ混乱しているかと言えば、そもそも人間には「ヒューリスティック」な部分があるんです。この連載では、ヒューリスティックとそれによって僕らが捕らえられている「バイアス」を知ることで、少しでも偏らないための下地作りをして行きたいと思います。

ヒューリスティックとバイアス

心理学における「ヒューリスティック」というのは、要するに意志決定の時に発動する経験則のことです。我々の脳は、今までの経験を元に似ていると判断した問題に対して分析をショートカットして答えを出す傾向があります。すでに知っていることをいちいち分析していると無駄な労力がかかるからです。コストパフォーマンスを上げようとする、もっとシンプルに言えば楽しようとするんですね。

しかし、素早くザックリと答えを出すわけですから、当然のことながら精密ではありません。それどころか相当偏っている可能性があるんですね。その偏りのことを「バイアス」と呼びます。

僕らの思考は縛られている

では、最初に出した問題を思い出して下さい。今度は、現実的に転換します。

【問題2】あなたは街を歩いていると暴漢に襲われました。その時、あなたは鞄しか持っていませんでした。今度はどうしますか?

楯は防具であるというバイアスがかかっている人は、防御に徹するか、捨てて逃げるというような発想に走りがちです。一方、鞄は普段から武器や防具という認識はないですから、形状は楯に近いにもかかわらず、それで攻撃するという発想を持つ人も多いと思います。

確かにコンピューターのロールプレイングゲームなどにおいて、楯を持ったところで攻撃力は上がりません。それはゲームの常識です。ゲームはルールの集積ですから、プログラムされていない限り例外は起こりません。バグくらいです。

しかし、現実世界では法律や空気などルール的なものはありますが、その拘束力はきわめて緩いものです。つまり思い込みを外せばなんだって出来ます。べつに楯で殴ったって良いわけです。ソリのように乗って坂道を逃げてもいいし、この楯をあげるからから襲わないでくれ、と交渉することも出来ます。

バイアスキャンセルの方法

私達は「それが基準であると信じていること」に基づいて物事を判断しています。最も強く基準となるのは知識も含めた自分の経験です。

たとえば「常識」というものも強力なバイアスの一つですが、それが常識であると経験的に思い込んでいるんですね。誰かが常識であると言っていた、あるいは自分が知る限りみんなそうだった、というような経験です。今でこそマスメディアに対して懐疑的な視点が増えてきましたが、「みんな」の代表であり「客観」の代表であるマスメディアが報じていることは「常識」と捉えられやすいわけです。それもまたヒューリスティックと言えます。

では、どうやってバイアスを無くしていくかというと、これは簡単です。そういうバイアスがある、僕らの思考にはそういう傾向がある、と知るだけで良いんです。これもヒューリスティック的なことですが、間違う可能性があることを知ることによって、それが経験則に加わります。脳は間違う可能性を嫌いますから、知っていれば自動的に避けるようになるというわけです。では、これから知の楯を磨く小さなテクストの逍遥を楽しんで戴ければと思います。

» 第2回に続く

矢萩邦彦(Kunihiko YAHAGI)

教育・アート・ジャーナリズムの現場で活動し、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指す日本初のアルスコンビネーター(命名は松岡正剛)。予備校でレギュラー授業を持ちながら、全国で江戸的私塾『鏡明塾』を展開、分野にとらわれない現代版陽明学を実践している。学校機関でも特別講師として平和学・社会学・教育学など講演。また教育コンサルタントとして学生や保護者へのアドバイスに留まらず、講師研修・企業研修等も手がけている。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではジャーナリスト育成や大学との共同研究に従事、ロンドンパラリンピックには公式記者として派遣された。

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